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#2 礎 2

2021年12月18日

社長は1ヶ月ほど入院していたのですが

体調が良いのでまた職場に復帰するとの

知らせを受けその翌日には出勤してきました

 


髪の毛は抜け落ち、眉も無くなり

「熊」みたいな巨体がやせ細り


 

それでも社長はなにくわぬ顔でいつも通り

仕事をしていました


 

そして夕方になると、いつも通り


 

「お疲れ様です」


 

「今日は忙しいですか?今から一杯どうですか?」


 

クマのスタンプ付き

 

 

社長の性格は誰よりも知り尽くしている

だから俺は、いつも通りに接する


 

「お誘いありがとうございます。急いでそちらに

向かいます」


  

酸素ボンベを引っ張って鼻にチューブ

立ち飲み屋でいつも通りの乾杯といつも通りの

「ママそれ焼いて。あと厚揚げ、2つね」

 

 

そんな日も束の間

社長の体力はみるみる衰え、

遂に出社できない状態に


 

そして再入院


 

入院中の社長に会う為

図面や予算の打ち合わせという口実を作っては

社長に電話し、毎日病院へ通いました

ある日、

病室から出て帰ろうとした時

 

 

「おい・・・・・」

  

 

「ありがとうな。」

 

 

そう言われ、心底驚きました



私に「ありがとう」と言うような人ではないし

心配されることを極端に嫌う人

 

 

「体調はどうですか」とか、

 


「早く元気になってください」とか

 


今まで一切、僕は口にしなかったのに

 

 

見舞いに来たのではなく、仕事の打ち合わせで

来たかのように振る舞い

社内での会話と同じように


 

「お疲れ様です。すみませんお疲れのところ」

 


「どうしても○〇現場の工期の件は社長と

相談したくて」

 

 

そうやって、悟られないようにしていたのに

 

 

「おい・・・・・」

「ありがとうな。」

 

 

下に降りるエレベーターの中で、

その言葉に違和感を覚え

私はまた社長の寝ている4階の部屋に戻りました


 

でも、どうしても病室の扉を開けることはできず

結局、そのまま病院を後にしました

私に「ありがとう」など言うような人ではない

 


お別れの言葉ではない

絶対に違う

 

  

翌日の昼

平成30年9月10日

 


66歳


 

社長はこの世を去りました

 

 

  

信頼され

誰よりも誘ってもらい

誰よりも叱られ

誰よりも社長の事が好きだった私

 


社長が亡くなった事を聞かされた時

私は人目をはばからず

本社の一室で声を上げて泣きました

 

 

社長が亡くなった後、

会社を辞めようと考えていたものの

そう簡単にはやめられないのが現実

 


沢山の案件を抱えていたこともあり、

数ヶ月程度で引き継げる内容ではありませんでした

 

 

責任

お世話になった会社への

「責任」

 

 

片づけても、片づけても

次から次へと仕事が...

 

「このままでは、やめられない」

今年の3月19日

半年続いた現場が終わる

最後の竣工検査の日

 


本当に突然でした

 

 

仕事終わりにコンビニでビールを買って

車に乗り込みふと空を見上げたら

 


綺麗な満月


 

暫くボーーっと空を見ていたら

  

 

「俺、もう仕事、辞めよう」

 

 

給料は文句ありませんでしたし、

今以上を望むつもりもなかったです


 

休日や労働時間に関しても待遇は良い方だったと

思います

 

 

18年間お世話になり、42歳

あと18年働けば60歳


 

人生の折り返し地点


 

去る時が来た

 

  

「一回全部、捨ててやろう」

 

 

後任の社長に辞表を提出したとき、辞める理由を

尋ねられました


 

「やっぱり、先代の社長か」

 

 

そう尋ねられましたが

「はい」とも

「違います」とも言えず

その日の夜、

新社長と直属の上司と3人で

焼き肉を食べに行きました

 


そこで、自分の将来図を延々と話しました

  

 

「お前は、うちの会社で勤めてるような

人間ではない」


 

「俺はお前から会社を辞めるって話を聞いた時、

正直嬉しかった」

と、直属の上司

 


そんなふうに思っててくれたんだな

本当に俺は、恵まれている

 

    

先代の社長がこの世を去って約3年

僕は今年の6月に会社を去りました


 

18年も家族に飯を食わせてくれた会社には

今でも感謝しかありません


 

仕事を辞めた理由は他にも色々とありますが

尊敬する人に人生半ばで旅立たれ

その事を今の自分の人生と重ね合わせた事が

決断するきっかけだったのかもしれません

 

  

人間いつ死ぬか分からない

人生、できるできないではなく

やるか、やらないか



俺はやりたいことを全力でやって

一片の悔いなく死んでやる 



後悔のない、有意義な人生を目指して

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